今回は、『自分の「声」で書く技術』のエッセンスのひとつ、「ティーチャーレスクラス」をご紹介します。
一度でいいから、自分にしか書けない文章を書いてみたい。
時代や場所を問わず、自己表現は憧れと共に焦燥の対象となってきました。
とはいえ、誰かの真似をするだけでは真の満足感には至りません。
そこで、これこそ自分だと思える表現を手に入れるための道筋を、具体的かつ段階的な方法論によって提示してくれるのが本メソッドです。
ティーチャーレスクラス|教師なしのライティング
『自分の「声」で書く技術』(英治出版 2024)を参照しながらご説明しましょう。
それは、一部の”才能”に恵まれた者にだけ許されたライティングの能力という概念を「誰でも手が届く」に転換したということ。
書籍後半、水平な関係性の「ティーチャーレスクラス」という共同体を舞台に、他者からの率直なフィードバックによってはじめてあなたの言葉の形や特質が姿を現すこととなります。
実は、本書の原題は『Writing Without Teachers』(Oxford University press 1983)。
直訳するなら、”教師なしのライティング”です。
ですが、いったいどうやって教師という存在に頼らずに、ライティングを、つまり「自分の声で書くこと」を学んだらよいのでしょうか?
そのカギは、ティーチャーレスクラスのメンバーが、お互いに気づきと学びを言葉による「フィードバック」を与えあうところにあります。
自分の「声」で書くために必要な「ティーチャーレスクラス」および「フィードバック」とは?

フィードバックの原則
ティーチャーレスクラス内で相互に与えあうものが、フィードバックです。
さっそくここからは、フィードバックについて詳しく説明していきます。
フィードバックの原則は、誰かのアウトプットを読んであなたの「頭の中に再生された映画」を言葉によって伝えること。
助言や採点は不要です。必要なのは、あなたの主観なのです。
一人称のあなたの感覚を伝えてあげて下さい。「世間的には〜」とか、「海外では〜」ではなくて、あなたの主観であることがポイントです。
そしてできるなら、アウトプットの中の特定の「部分」を絞って、その部分に対してフィードバックを行ってください。
「全体として○○」では、もらったフィードバックがぼやけてしまいます。
一人称から、
部分を絞って、
あなたの「頭の中に再生された映画」を、言葉で伝えること。
これがフィードバックです。
フィードバックの受け取り方と活用法
フィードバックは、ありがたいものです。
ですが、全て受けいれる必要はありません。
フィードバックとは、あなたのライティングを育てるための材料なのです。
だから、もしその材料があなたのライティングを発見し、磨くために必要であれば採用して下さい。
もしそうでなければ、感謝の気持ちだけ抱いて、採用は見送りましょう。
(ですからもらったフィードバックに対して反論や議論を行うことはありません)
フィードバックを受け取る基準は、あなたが自分のライティングの方向性が見えてくるにつれてクリアになってきます。
自己検閲から創造性への変換
人間は社会的な動物です。
そんな人間にとって言語やコミュニケーションとは、自他の協働によって形作られていくという性質があります。
ですが、利害関係を前提とした一般社会のコミュニケーション(上司と部下、友人同士、夫婦等)では、相手の言葉に対する本当の感想は、めったなことでは伝えることができません。相手を傷つけないように持ち上げたり、後輩だからといって素直に好きな点を言葉にしなかったり、といった事が無意識に起こってしまうからです。これも自己検閲の一種です。
ですが、「ティーチャーレスクラス」という、ライティングを育むための対等な立場の当事者グループ(ピアグループ)でなら、ご説明したようなフィードバックを交換することができます。
Writing Without Teachers.
このティーチャーレスクラス(=教師のいないクラス)の場にはだから、ライティングの教師はいません。
学びは教師から与えられるのではなく、参加するメンバーが相互に学びのヒントを与えあうことによって生まれるのです。
このようにして、あなたの言葉の特質=「声」が、次第に明瞭になっていくことになります。
まとめ
本コラムでは、自分の「声」で書くための技術である「ティーチャーレスクラス」について、その概要を紹介いたしました。
「ティーチャーレスクラス」についての具体的で詳しい内容は、書籍『自分の「声」で書く技術――自己検閲をはずし、響く言葉を仲間と見つける』で解説しています。
また企業や自治体・教育機関向けに、本書の内容をもとにした自己検閲をはずすワークショップやセミナーも開催しておりますので、ご興味をお持ちの方はこちらからご相談ください。